徳島県

とくしまサテライト
オフィスプロジェクト

県内全土に張り巡らされた
「光の道」が移住者を引き寄せる
「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」成功の要因とは?

2017年12月18日、徳島県とソフトバンクは、IoT、ビッグデータ、AI等の利活用により地方課題の解決を図るとともに、新たな産業・サービスの創出を目指す「とくしまインダストリー4.0」の実現に向け、包括連携協定を締結しました。

人口減少・高齢化が進む徳島県で、今、それに歯止めをかける新たな流れが生まれつつある。大都市圏の企業が、徳島県内に続々とサテライトオフィスを開設。これにより若者層の流入も増加しているのだ。サテライトオフィス誘致成功の要因はどこにあるのか?また、今後は何を目指すのか?

県内11市町村に56社がサテライトオフィスを開設

徳島県は人口減少や高齢化といった課題が日本全国に先んじて進行している県のひとつだ。1950年に87万8000人だった県人口は、今や75万人を割り込んでおり、2040年には57万1000人にまで減少するという試算もあるほど。一方、65歳以上の高齢者の人口は増加しており、2020年には県人口の約1/3にあたる、24万7000人にまで達する見込みだ。

しかし、こうした状況に、今、一筋の明るい光明が見えている。東京・大阪などの大都市に本社を置くベンチャー企業が、徳島県内に続々とサテライトオフィスを開設しているのだ。現在、県中央の山間部にある神山町や、南部海沿いの美波町、さらには西部の三好市・美馬市などのにし阿波地域を中心として、11市町村に56社が進出。これに伴い、県外からの若者層の流入が増加、さらには70人以上の地元雇用も生み出している。

「テレビが見られなくなる」というピンチをチャンスに

徳島県にサテライトオフィスの開設が相次いでいるのには、県内全域に「光の道」、すなわち高速の光ファイバ網がくまなく張り巡らされていることが大きい。この光ファイバ網の整備は、2011年のテレビ放送の地上デジタル化を理由とするものだ。アナログ時には、徳島県では大阪のテレビ電波が届いており、最大10波が受信できていたが、デジタル放送への移行に伴いそれが困難になり、3波しか受信できなくなることになった。このため、ケーブルテレビが視聴できるように、山間部に至るまで総延長20万km超にも及ぶ光ファイバ網を県が主導して敷設。これによりあわせてインターネットのブロードバンド通信も可能になったわけだ。利用人口がさほど多くないことから、回線速度は大都市に比べて大幅に速いという。

高速インターネット通信が利用できることを背景に、2010年にはクラウド名刺管理サービスを手掛けるSansanが神山町に古民家を改装したサテライトオフィスを設置。2011年3月の東日本大震災の発生後、事業継続の観点から多くの企業が本社から離れた場所にオフィスを設置することを検討するようにもなった中、自然の中でPCを持って働く姿が大きく報じられたこともあり、神山町に進出するIT企業が増えてきた。さらに、神山町だけでなく、県内全域にこの流れを広めようと、古民家や遊休施設にサテライトオフィスを誘致する「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」が2012年3月から本格展開することとなった。「そもそものきっかけは、『地デジ化によりテレビが見られなくなる』というピンチから。まさに『ピンチをチャンスに』したわけです」と、徳島県政策創造部 地方創生局 地方創生推進課 新未来創造担当室長の秋山孝人氏は語る。

徳島県政策創造部 地方創生局 地方創生推進課
新未来創造担当室長 秋山孝人氏

移住者が地域の課題を解決する効果も

「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」では、地域・NPO・進出企業・行政が一体となり、SNSなども駆使した戦略的な情報発信や視察ツアーの実施、進出したい企業を案内するコンシェルジュの配置、地元金融機関との合同相談窓口の設置など幅広い活動を展開。県内は車がないと移動が難しいため、企業が車を用意し、県が駐車場を確保するといった形でカーシェアリングも運用している。

特にサテライトオフィスの集積が進むのは、前述した神山町、美波町、にし阿波地域の3地域。神山町ではもともとNPOグリーンバレーを中心に国際交流やクリエイターの受け入れに力を入れていたことから、多様な人材が流入。美波町では海沿いということでサーフィンなど趣味と仕事を両立する人が多い。また、にし阿波エリアでは行政が中心となり地元事業者との企業間交流やビジネスマッチングを推進する施策を実施。それぞれが地域の特色を生かしたサテライトオフィスの誘致を行っている。「集中して仕事ができる」「仕事と趣味を両立し、心身ともにリフレッシュできる」と進出企業からの評価も上々だ。

また、例えば自然環境保護の観点から、地域住民との協動により杉の間伐材を活用した食器を商品化したり、ICT業界を目指す学生を対象に地域に役立つアプリケーションソフトを開発する「ソフト開発合宿」を実施したりと、進出企業が地域の課題解決に貢献する効果も生まれている。2017年11月には神山町において、最先端の4K・8K映像を駆使した作品を集めた「4K徳島国際映画祭」も開催され、注目を集めた。サテライトオフィス誘致の先進県として他県および海外からの視察も多く、2016年度は神山町だけでも2489名。県全体では2800名以上にのぼる。

「お接待の文化」が根付いていることも誘致成功の要因

なぜ徳島県においてサテライトオフィスの誘致が成功しているのか?その理由について秋山氏は「インターネットの高速回線があったことは大前提」とした上で、「重要なのは“人と人のつながり”」と言う。徳島では古くから四国八十八箇所の霊場を巡るお遍路さんをねぎらう「お接待の文化」が根付いており、外部からやって来る人に非常に寛容だ。

「ある意味、ちょっとユルいというか(笑)。ガツガツとウチの県に来てくれ、ではなく、『面白そうだから一緒にやってみようか』という気質があるところが、進出してくる企業やそこで働く人の居心地の良さにつながっているのではないでしょうか。ハコモノを建てます、補助金を出します、といった誘致だと、人は集まらないだろうし、来てもらってもカネの切れ目が縁の切れ目ということになりかねない。コミュニケーションをしっかり取って、『ここにずっといたい』と感じてもらうことが何より大切だと思いますね」と秋山氏は強調する。

「都会の大手企業に入社しないとキャリアが積めないという時代は終わった」

徳島県庁は2016年4月から、神山町の「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」にオフィスを設置。職員2名が常駐し、自らもサテライトオフィスでの「働き方改革」に取り組んでいる。「テレビ会議などを活用することにより、本庁舎にいる時とほとんど変わらない感覚で仕事ができています。何より、ここにいることで、実際に徳島に進出してきた方々と密に交流し、雰囲気を肌で感じられる。私自身、多様性の豊かさとダイナミクスさに大きな刺激を受けています」と秋山氏。

また、2016年3月には消費者庁が神山町で業務試験を実施。同年7月の徳島県庁での大規模業務試験を経て、2017年7月には徳島県庁に「消費者行政新未来創造オフィス」を開設しており、徳島における同オフィスの恒常的な設置や規模の拡大について、3年後を目途に結論を得ることとなっている。中央省庁の徳島への移転が実現すれば、都心一極集中から地方創生へという流れを作る上で大きなインパクトを持つだろう。

今後、「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」では、大きく3つの活動に注力していく。1つは、外資系企業の誘致を含めた国際展開。すでに英語版やドイツ語版のPR動画を作成したり、国際的なIT関連の展示会に出展したりといった活動を実施。2017年5月にはドイツのニーダーザクセン州首相が神山町を訪れ、強い関心を示したという。2つめは、企業の本社機能の移転誘致推進。「むしろ徳島に本社を置き、東京をサテライトオフィスにしては、ということです。徳島にサテライトオフィスを置いて機能しているのだから逆もできるでしょう、と」(秋山氏)。3つめは、国の実証実験のさらなる誘致。消費者庁のみならず他の省庁や機関の徳島移転に向けた実証実験を積極的に受け入れていこうというわけだ。

「もっともっと多くの方に、サテライトオフィスでの新しい働き方を体感してもらいたい。また、都会の大手企業に入社しないとキャリアが積めないという時代は終わった、ということを、特に若い人に知ってほしいですね」と秋山氏。人口減少・高齢化が全国に先行して進む徳島県で、サテライトオフィス誘致による若年層の人口流入が進めば、今後、その成功のノウハウを同様の課題を持つ自治体に提供していくことも可能になる。「課題解決先進県」として、徳島県の今後の取り組みがますます注目される。

取材日:2017年11月29日